PayPay銀行が東京信用保証協会付融資を開始する衝撃
PayPay銀行が保証協会付融資を始める
2025年の秋からPayPay銀行が東京都内の事業者向けに、東京信用保証協会付融資の取扱いを開始します。これは新興の通信会社やネット企業の銀行が本格的な事業性融資を始め、遂にリアルの世界に入ってきて、来るべき時が来たという感じがします。
PayPay銀行は、2018年にPayPayのサービスを開始してまだ7年程度しかたっていません。ソフトバンクグループの資金力やネットワーク力、ブランド力で、いっきに全国の消費者の決済や、中小企業の決済システムを全国に行きわたらせました。
全国に決済ネットワークを築きプラットフォームができたので、新しいサービスを既存決済システムと絡めて、随時導入していくという戦略だと思います。
保証協会付融資は銀行と取引先、双方にメリットのある公的制度
保証協会付融資は、中小企業にとっては資金調達の重要な手段です。地域金融機関にとっては、保証協会の保全(担保)を取りながら融資対応ができるので、プロパー融資よりもスピーディーに資金を出せます。銀行とお客様双方にとってメリットのある非常にありがたい公的な制度なのです。
PayPay銀行がリアルの融資事業に参入するメリット
保証協会付融資は既存の銀行にとっては保全(担保)という位置づけですが、PayPay銀行側は保全という位置づけもありますが、中小企業のリアルの資金調達のところに大きく参入できる窓口ができたことになります。
PayPay銀行はソフトバンクのグループ会社で、ソフトバンクはAI関連のテック企業です。PayPay銀行は従来からスモールビジネスローンの取扱いをしていますが、今回の東京信用保証協会付融資は、中小企業の資金調達の、深い本丸に近い部分に参入した感じがします。保証協会の融資取扱いが増加することで、中小企業の資金調達の課題がより鮮明になってきて、中小企業融資のノウハウが蓄積されていくはずです。
そして地域金融機関から見て脅威だと感じるのは、PayPay銀行がテック企業で情報を取り扱っているということです。ソフトバンクのAI戦略の中で必ず、後々の融資サービスにもAIが入ってくるはずです。
PayPay銀行は決済データから消費トレンドを把握できるビッグデータを持つ
PayPay銀行は決済データだけではなくて、全国レベルでの消費者と中小企業の決済データをもとに、いろいろな消費動向や物の売れ行き情報を持ちトレンド分析もできます。このデータは一地域金融機関が持っている決済データとは比べ物になりません。全国の消費動向やトレンド情報のビックデータを持つ企業なのです。
PayPay銀行が地域金融機関の融資シェアを奪う
この決済情報をもとにした消費トレンドのビックデータと、中小企業のPayPay銀行を通じた決済データ、企業の財務情報を組み合わせた融資サービスは、今まで地域金融機関が行っていた融資判断とは違ったものになるのではないでしょうか。地域金融機関が人力を使って、財務データをもとに融資判断をしていたものが、PayPay銀行のAIを使った融資により、簡単に代替されてしまう可能性が出てくると思います。
この仕組みが全国に浸透していけば、地域金融機関が今まで行っていた融資は、かなりシェアを取られるのではないでしょうか。
地方へのサービス拡大が得意なPayPay
PayPayは皆さんがご存知の通り、自治体とコラボしたポイント還元戦略で認知度をアップさせて、口座数を飛躍的に伸ばしてきました。そういう意味では、地方での営業戦略にたけた企業なのです。おそらく今回の東京信用保証協会の融資業務を皮切りに、全国各地の信用保証協会とも提携するはずです。これは地域の中小企業の側からも要望が出てきて、全国に広がると思います。
PayPay銀行は中小企業融資を超えたサービスを提供する可能性がある
そしてPayPay銀行の「融資」+「決済ネットワーク」のサービスが広がりきったところで、さらに決済や融資回りのサービスを追加導入する可能性があるのではないでしょうか。
例えば、
- PayPay銀行と取引をしている中小企業に、低料金の会計サービスを提供する。
- PayPay銀行と取引をしている店舗に対して、有効なウェブ広告を優先的に配信するサービスを提供する。
- 中小企業に対して消費トレンドを加味した商品開発の提案をする。
- 社内のDX化をサポートできるアプリを簡単に導入するサービスを提供する。
etc・・・。
中小企業の事業活動に関する分野のサービスであれば、何でもありの状態になると思います。
そうなってくると、PayPay銀行は中小企業の資金決済回りを中心に、事業活動を支えるインフラを提供する企業ということになります。今のGAFAが行っているサービスと同じように、中小企業が事業運営するうえでは利用せざるを得ない仕組みになる可能性が高いのです。
地域金融機関がPayPay銀行の下請けになる可能性
下手をすると、地域金融機関はPayPay銀行の地域での下請け企業として、窓口的な位置づけに甘んじる可能性もあると思います。PayPay銀行のサービスを提供する地域の代理店の役割です。
PayPay銀行の中小企業向け融資の仕組みや、決済周りのサービスが全国に行きわたった時に、地域金融機関が下請として付き合うのか、パートナーとして付き合うかは、地域金融機関の地域での力量次第になってくると思います。
PayPay銀行の下請けにならないために
PayPay銀行の下請けにならないためには、今から地方銀行の強みをより明確にして、生き残り戦略を図るしかないと思います。
地方銀行の強みは、現場で地域のお客様と繋がっている現場の社員さんがいることです。社員さんが地域のお客様と繋がって、お客様の事情を家族よりも知っているということが強みなのです。
PayPay銀行は地域には、多くの従業員はいません。なので地域金融機関の社員さんしかできないことに注力していくことが強みになるはずです。テック企業のサービスはあくまでもツールであり、それを使いこなすのは中小企業の人です。地域金融機関の運営を、人の繋がりを中心とした仕組みに変えていく必要があると思います。最後には、地域の中で人と人を繋いで新しい付加価値を作っていく仕事しか残らないのではないでしょうか。
地域金融機関が、課題解決を図るコンシェルジュや事業のサポーターになる
これからテック企業のサービスは金融の中に入込み、今までの仕事の仕方や、考え方が変わってくるはずです。変わる部分は社会の流れとして仕方がありません。
一方で変わらない部分はリアルのお客様と、お客様が抱えている課題や悩みです。そこに常に接しているのが地域融機関の社員さんになります。
課題解決を図るコンシェルジュの役割だったり、新しい事業を立ち上げるサポーターだったりと、地域金融機関の職員さんにしかできない役割が最後に残るはずです。この部分は地域に人材がいないテック企業にはできない仕事です。
PayPay銀行の東京信用証券協会付融資の開始が、地域金融機関の仕事の仕方を変える契機になる気がします。