地方銀行の低PBRを解消する人的資本経営の考え方

2025年11月17日

「なぜ地方銀行は低PBRのままなのか?その本質は"人的資本の活かし方"にあります」

日本の地方銀行が低PBRに陥っている最大の要因は、「人的資本が本来の価値創造につながらない組織構造」にあると考えています。本記事では、低PBR問題と人的資本経営を統合し、地方銀行が次のステージに進むための"構造改革の本質"を整理してみました。

地方銀行の低PBRである構造的問題は何か?

(要点:人的資本が本来の価値創造に向かう仕組みが欠けており、現場の課題に人材を充当できない構造が低PBRの根本要因となっている。)

日本の地方銀行が低PBRとなる構造的な原因として、現場のお客様の課題に対して、行員の人的リソースを適切に充当できていないことが原因だと思います。

地方銀行では、基幹システムや運用ソフトは入れるものの、現場の生産性改善や、収益を生み出すための仕組みづくりができていないのです。

銀行は本部から支店まで、縦割りのピラミッド型構造をしており、上位下達の文化があり、なかなか現場で生まれるべき新しい価値を汲み取り、処理する仕組みができていないのです。

収益構造の限界と「+α」モデルの必要性

(要点:目標数字の消化に追われる現場では、顧客課題に向き合う余力が奪われ、人的資本が価値創造に活かされない悪循環が生まれている。)

現在は金利上昇局面ではありますが、収益性の上限が金利の上昇幅に限定されています。現在のままでは、金利の上昇以上の収益の伸びは期待できません。

金利収入や保険・証券業務といった従来からの業務に依存するだけで収益を伸ばすことにはおのずと限界が生じます。この収益性の限界こそが地方銀行の現場の働き方を苦しくしている原因だと思います。

地方銀行の現場で得られる収入構造は、

資金利益・資金関連収益(証券・保険業務等) +  α」 、です。

高度成長期や人口増加時には、資金利益と資金関連業務収益の獲得を中心にやっていれば経営ができていました。しかし地域の人口減少問題が起こる中では、この収入構造では、将来的な伸びは限界があります。

今後の収益を伸ばすためには、「+ α」の部分をいかに作っていくかということが、今後の地方銀行の経営課題です。

どの地方銀行もそれはわかっていて、この「+ α」が「コンサルティング業務」、「地域活性化業務」ということなのだと思います。

しかし、ここで業務の考え方をきちんとしていないと、なかなか収益を伸ばすことは難しいのではないでしょうか。

なぜなら、従来の資金関連収益を上げる営業の仕組みの延長線で、このコンサルティング業務も考えているからです。

現場運営の仕組みが人的資本の価値を阻害している現実

(要点:総花的な営業から脱却し、顧客課題へのアプローチを軸に人材と情報を最適化する"課題解決型組織"への転換が求められている。)

現場では、貸出や保険・証券商品、各種コンサルティング目標が支店ごとに細分化され、期初から「獲得合戦」のような競争が始まります。

業務運営が"目標数字を埋めること"に集中してしまい、本来の顧客課題に向き合う思考が生まれにくい構造です。

さらに、期初には「お客様のためのコンサルティング」というスローガンが掲げられても、期中には本部から「あの項目が未達」「この数字を埋めてほしい」といった顧客価値と無関係な指示が飛んできます。

これによって、"顧客起点の価値創造"ではなく、"数字の消化"が優先される現場運営になってしまうのです。

つまり、人的資本が顧客価値を生むための思考・時間・接点が奪われている構造こそが、収益の伸びしろを失わせ、低PBRの根本原因になっているのです。

この硬直的な仕組みが、地方銀行の収益が金利上昇分しか伸びない原因であると思います。金利の上昇分が収益の伸びの限界です。

そこで「+ α」の部分をいかに伸ばすかが地方銀行が次のステージに行くために必要なことではないでしょうか。

本部・支店モデルを"課題解決型"へ再設計する思考

(要約:顧客課題と人的資本を中心に据え、従来の属人的営業から脱却した「課題解決型組織」への転換が求められる。) 

これから必要になってくるのは、顧客の情報の活用と、人材の活かし方です。従来はAIもなく、通信技術も発達していなかったので、属人的な営業スタイルで個人に営業目標を課すことで経営が成立していました。しかし今の人に頼った営業では、収益の上限が限られています。

従来のままの人に依存した営業スタイルを続けていると、ブラック企業として人材も集まらないし、キャリア形成ができない職場として、労働市場からもますます見放されて、良い人材が集まらないでしょう。

ここで考えなければいけないのは顧客対する課題にアプローチする接点です。現在の、総花的な営業目標を設定されている現場の人たち(行員さん)は、顧客課題にじっくりと腰を据えてアプローチできる思考が生まれたり、接する時間が生み出されているかということです。ここが現場の運営の一番の問題点です。

お客様の経営課題にスムーズにアプローチできる仕組みに変えないと、いつまでたっても表面上の御用聞き営業になって、お客様との深い関係性は生まれないし、本当の接点を築くこともできないと思います。

情報(顧客課題)×AI×人的資本が生む新しい収益源

(要点:AIは業務効率化の道具ではなく "行員の思考を拡張するツール"。顧客課題×AIの活用が、新たな収益創造の道を開く。)

ポイントは、顧客課題にアプローチする思考をすることと、アプローチできる時間を確保することです。そのためにはAIをうまく使うことが重要になってきていると思います。

現在の日本の中では、AIの活用は業務効率化のほうに目が向いていると思います。しかしAIの本質は、人間の思考を拡張してくれるツールです。

地方銀行の中には、既にお客様ネットワークと課題となる顧客情報があり、お客様に接する現場の人材(行員さん)がいます。この人材(行員さん)の思考をAIで拡張しながら、お客様への課題へスムーズにアプローチして、課題に対して銀行の組織を上げてソリューションできる仕組みを構築すれば、いくらでも仕事は作れるのではないでしょうか。

そのためには今の縦割りになっている本部・支店の概念も変えていく必要があると思います。

硬直的に支店に人材を貼り付けているという思考を脱して、情報(課題発見・解決)をベースにした営業体制に仕組みを変えていかないと、これから地方銀行が大きく伸びていく事は難しいと思います。

顧客課題を入口にするカスタマーサクセスモデル

(要点:融資を入口にする従来型から、顧客課題を入口にする"ソリューション→信頼→融資"のカスタマーサクセス型に転換すべき。)

ここで大切なのは「+ α」のコンサルティング業務に注力していくが、本業である資金収益の部分も、おろそかにしてはいけないということです。

コンサルティングによる課題解決業務から、お客様との信頼関係を築き、最終的な融資につなげるというカスタマーサクセスを構築していかなければなりません。

「顧客の情報(お客様の課題情報)アプローチ」 ⇒ 「本部一体となった課題解決」 ⇒ 「お客様からの信用獲得」 ⇒ 「資金の利用」という、カスタマーサクセスをスムーズに行うための、組織構造変化と人的リソースの最適化が必要です。  

従来の融資をお客様の入り口にするのではなく、お客様の情報(課題)を入り口として、融資にまで繋げるカスタマーサクセスの変更です。

顧客課題(情報)への人的リソース最適化(人的資本経営)がPBR改善につながる

(要点:顧客課題に人的資本を最適配置することで付加価値を生み、収益の最大化とPBR改善を同時に達成できる。)

現場でのお客様の情報(課題)に対するアプローチ方法の変更と、人的リソースの使い方を変えることで、お客様が生み出す付加価値を増大させる機会を増やします。

そしてお客様が生み出した付加価値から地方銀行の収益も得られ、かつ信用も獲得して融資へも繋いでいくというモデルを、AIを使いながら達成することは可能だと思います。この仕組みを地方銀行の人材を有効に使いい、収益機会を効率的に最大化できれば、低PBR問題は改善できるのではないでしょうか。


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著書:「地方銀行ノマド ~地域ネットワーク×WEBマーケティング~」  藤堂敏明