人的資本経営に社会的資本(地域ネットワーク)を活かす
旧態依然とした仕組みからの脱却
2023年3月から、上場企業に対して人的資本に関する情報の開示が有価証券報告書で義務付けられました。
人的資本経営とは、組織に属している人材を資源から資本に切替えて、人材を投資対象としていくことです。人(社員さん)にいかに価値を創造してもらうか、人が持っている能力を最大限に発揮してもらうかということです。一方で、現状の会社組織に目を向けてみますと、既存の仕事の枠組みの中で業務を与えてこなしていく、ノルマを与えて獲得を競わすといった、従来型の仕組みがまだまだ残っているような気がします。
経営理念や会社の方針では、人的資本経営をうたっている会社が多いと思います。しかし実際は旧態の仕組みを引きずり、人的資本経営を標榜しながら古い価値観のままで会社運営がなされている組織も多いのではないでしょか。
人的資本経営の指標が目的化していないか
人的資本経営の指標には、①教育・能力開発②エンゲージメント③ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)④労働環境・健康経営⑤公平な評価・報酬制度といった代表的な指標があります。
当然これらの指標を改善したり、向上させていくということは重要です。しかし大切なのは組織に所属している社員さんが、新しい価値を創造して、自分が生み出した価値が組織の中の人に役立っているとか、その価値がお客様に対して認められている、という仕事の仕組みがエコシステムとして稼働していることが重要だと思います。
指標はあくまでも人(社員さん)が、自由な発想で価値創造をするための前提条件です。自由な価値創造ができることが大切なのだということが、組織の中で統一して認識されていることが重要だと思います。表面的な指標にこだわった経営をしていると、旧態依然とした仕組みが残ってしまい、指標の向上が目的化するという日本の組織にはありがちなもったいないことが起こってしまいます。
収益を生む発想を転換する
人的資本経営を本気で取り組むためには、発想の転換が必要です。今まで貸出や証券・保険の売買手数料で収益を獲得していくという発想から、お客様との間で新しい価値を創造して、価値創造活動を通じたお客様との関係の上に、貸出や証券・手数料の獲得があるという発想に切替えていかないと、人口減少が進む日本の中ではどこかで行き詰まるのではないでしょうか。
AIの発達により貸出業務や証券・保険業務の事務負担は50%も削減される可能性があります。一方で、若い人たちの人口は確実に減っており、人材が希少性の高い存在になってくるのは自明です。従来のノルマを課して、競争を煽り営業するという仕組みはどこかで限界を迎える気がします。これは営業受けるお客様の側から見ても、銀行員からへりくだったお願いセールスを受けがちになり、銀行とお客様の関係性が公平にならず、発展的な関係が築きにくくなるのではないでしょうか。
人的資本経営に社会関係資本(地域ネットワーク)を使う
人的資本経営が上手く機能するためには、お客様への価値提供をする仕組みと、その価値提供する社員さんから、お客様への能動的なアプローチが自然に行われようにすることが必要だと思います。仕組化をするうえで、お客様と行員の接点を作ることが大切で、社会関係資本(地域ネットワーク)の活用が有効だと思います。
もともと地方銀行は地域の中に社会関係資本(地域ネットワーク)を築いています。これは融資業務を通して、地域のお客様と強いつながりと信用がお互いにあるからです。今は、この社会関係資本(地域ネットワーク)の活用が強く意識されてないと思います。社会関係資本(地域ネットワーク)を使って、新しい価値を創造していくという発想を持てば、いくらでも仕事はできるのではないでしょうか。
地方銀行の社会関係資本をビジネスマッチングで活用する事業者
今、地方銀行の社会関係資本(地域ネットワーク)を意識しているのは、外部の事業者さんです。地方銀行に対して、取引先の紹介や案件の紹介等で、事業さんから無数に依頼が入っているはずです。皆様の銀行にもビジネスマッチグという形で、多くの事業者さんと契約を結んでいるのではないでしょうか。事業者さんは、社会関係資本(地域ネットワーク)を地域の中で多く持っている地方銀行に対して、自分たちでは繋がれないお客様を紹介してもらって、自分たちの契約を取りたいわけです。銀行はビジネスマッチングで成約した事業者さんから手数料をもらうという仕組みで動いています。この社会関係資本(地域ネットワーク)があるから、事業者さんは地方銀行にビジネスマッチの依頼をするのです。
この社会関係資本(地域ネットワーク)をビジネスマッチングだけに利用するのではなく、地方銀行自身も活用するという発想に切り替えれば良いのではないでしょうか。地域の中には様々な課題が多くあります。この課題に対して地方銀行が能動的に課題解決をする動きや提案を、社会関係資本の中で作っていくということができます。地域と地方銀行にとって大切な価値創造活動を仕事にするという考え方に立てば、まだまだ仕事は多く作れるはずです。
これからはAIの発達により仕事の負担は50%削減されるわけです。この削減された分を人件費の削減というだけに終わらせてはもったいないことです。この削減された時間で、新しい収益性が高く地域のためになる仕事を作っていくということが、長い目で見たときに地域の活性化と地方銀行の経営に、大きくインパクトを与えると思うのです。
社会関係資本(地域ネットワーク)を現場の行員が繋ぐ
そして社会関係資本を現場でつないでいるのは、地方銀行の現場の行員なのです。現場に人材がいることが、地方銀行の社会関係資本を有効につなげるキモになっていると思います。
現場の行員が地域の中でハブとなって、いろいろなパターンでお客様の課題解決を図ることで付加価値を創造することをエコシステムとして仕組化していけば、収益が上がり、現場で仕事をしている行員のモチベーションも上がるはずです。
やりがいを生む「正の循環」を創り出す
そして課題解決をすることが仕事になれば、地域のお客様からも感謝され、お客様からの感謝や信頼を得ることで行員自身も成長するという「正性の循環」が生まれると思うのです。
課題解決を図ってくれる地方銀行という信頼がつけば、貸出や証券・保険の獲得も自然にその銀行との取引が増えるのではでないでしょうか。
このように新しい価値創造をすることが仕事になれば、その職場は前向きで明るい現場となり、働いている人たちのモチベーションもより上がるという「正の循環」を作ることができ、人的資本経営につながるはずです。
地方銀行には社会関係資本(地域ネットワーク)が既にあります。そして現場には社会的関係資本をつなぐ現場の行員がいます。発想の転換をすれば、新しい人的資本経営ができるはずです。是非社会的関係資本を活用して、行員さんのため、地域のため、自分自身の組織のためにも、やりがいのある新しい仕組み作りにチャレンジして欲しいです。