耕作放棄地から始まる、地域循環の挑戦

2026年06月06日

おいでまい栽培で見えた、地域ネットワークと食の自給の大切さ ―

5年間、耕作放棄地となっていた田んぼを借り受け、「おいでまい」の栽培に挑戦しています。 しかし、草刈りや現地確認を始めてみると、想像をはるかに超える課題が見えてきました。

1.田んぼの中に残された「5本の切り株」

米作が行われていなかった5年間のあいだに、田んぼの中には大きな木が自生していました。 所有者の方が整備のために伐採していたため、田んぼのあちこちに直径 15〜20センチほどの切り株 が点在していたのです。

目に見える範囲で数えただけでも5か所。 さらに掘ってみると、見えない場所にも太い根が深く張っている可能性がありました。

この状態では、トラクターで耕した際にロータリーへ根や切り株が引っかかり、 機械の故障につながる危険性が非常に高い

耕作放棄地を復活させることの難しさを、あらためて痛感しました。

2.専門業者でも「一度全体をチェックしないと危険」

丸亀市の農業委員会や農機具メーカーにも相談しましたが、 返ってきた答えは共通していました。

「一度、専門業者に入ってもらい、抜根作業をしないと危険です」

私自身の技量では対応しきれず、 いったん田んぼの所有者の方に、借り受けることが難しい旨をお伝えしました。

3.「父が大切にしてきた田んぼだから」所有者の思いが、道を開いた

すると所有者の方から、こんな言葉をいただきました。

「使ってくれる人がいるなら、きちんと元の田んぼに戻したい」

亡くなったお父様が長年大切にしてきた田んぼ。 その思いを受け継ぐように、専門業者に抜根と整地を依頼し、トラクターが入れる状態まで整備してくださったのです。

こうして、ようやく「おいでまい」を作るための環境が整いました。

4.地域の食を地域で支えるということ

稲作に携わる人は、地域の中で年々減っています。 人口減少の時代に、「食料も減るから問題ない」という考え方もあるかもしれません。

しかし、米は日本の食を支える根幹です。

国全体として、 国内で食を支えられる体制を持つことは、これからの時代ますます重要になります。

そしてこれは、国レベルだけの話ではありません。

地域レベルでも、 自分たちが食べるものを地域でどこまで支えられるか を考えておく必要があります。

特に降水量の少ない香川県は、水資源を徳島・高知のダム(池田ダム・早明浦ダム)や河川(吉野川)に依存しています。 食の源である水を県外に頼っている以上、 もしものときに備えて、地域で食料を支える力を持つことは欠かせません。

耕作放棄地の復活は、 地域の食の安全保障でもあるのです。

5.地域ネットワークが道を開いた

今回の課題を乗り越えられた背景には、 地域で築いてきた信頼関係がありました。

私の父が亡くなってから、母が小規模ながら米作を続け、 私はその手伝いをしながら、

  • 川の掃除
  • ため池の草刈り
  • 地域行事

に数年前から参加してきました。

その積み重ねが、 「この人なら任せられる」という信頼につながっていたのだと思います。

誰かが突然来て「田んぼを貸してください」と言っても、 今回のようには進まなかったはずです。

※経済学や経営の世界では、よく「人的資本(ヒューマンキャピタル)」という言葉が使われますが、これは単に「資格を持っている」とか「高度なスキルがある」ということだけを指すのではありません。地域ビジネスにおける本当の人的資本とは、地道な社会貢献や泥臭い対話を通じて培われる「地域からの信頼」や「人間関係の構築力」そのものです。この目に見えない「人的資本」の価値を正しく認識し、地域の未来にどう投資していくべきかという本質的な視点については、過去の記事「地方銀行員に必要な人的資本経営の視点」で詳しく考察しています。

6.ゼロから価値をつくる挑戦

今回の「おいでまい」栽培は、 ゼロの状態から新しい価値を生み出す取り組みです。

地域には、まだ耕作放棄地になっていないだけで、 今後そうなる可能性のある田んぼが数多くあります。

地域で食べるものは、地域で支える。 この考え方は、これからの時代ますます重要になります。

特に香川県のように水源を県外に頼る地域では、 米の自給体制を整えることは、地域の未来を守る行為です。

耕作放棄地を水田として復活させることは、 単なる農地再生ではありません。 地域の食を守り、将来の安心につなげるための大切な仕事なのです。

※今回の取り組みは、一見すると「マイナスの状態(放棄地)をゼロに戻した」だけに見えるかもしれません。しかし、そこに地域の安心や食の安全保障という新しい意味(付加価値)を与えることで、単なる米作りを超えた「新しい経済循環」を生み出すことができます。このように、地域に眠っている見えない価値を掘り起こし、ビジネスとして再定義していく思考法については、過去の記事「地域の中に眠っている無形資産から付加価値創造する」で詳しく解説しています。

7.継続することの重み

今回の経験で強く感じたのは、 継続が途切れると、田んぼは一気に「戻れない場所」になるという現実です。

私自身は56歳ですが、 周囲には私より20歳以上年上の方が、今も地域の稲作を支えています。

このままでは、地域の稲作は確実に途絶えてしまう。

だからこそ、 稲作を"続けたい仕事"にする仕組みづくりが必要です。

8.小さな挑戦が、地域を動かす

今回の耕作放棄地での「おいでまい」栽培は、 多くの方の協力によって形になりました。

  • 丸亀市農業委員会
  • 田んぼの所有者
  • 飲食店のオーナー
  • 水田を整備してくれた事業者

しかし、これらの人々を結びつけたのは、 私自身の「やってみたい」という一歩でした。

地域には、まだまだ埋もれた課題がたくさんあります。 そこに対して、地域ネットワークをつなぎ合わせ、 少し汗をかく人がいるだけで、新しい価値は生まれます。

誰も損をせず、地域に新しい循環をつくる。 そんな小さな挑戦を、これからも積み重ねていきたいと思います。

※農業委員会、所有者様、飲食店オーナー様、そして整備事業者様。私がハブ(起点)となり、それぞれの「点」だった存在が信頼で結ばれたとき、1人の力では不可能だった放棄地再生が動き出しました。これこそが、私が提唱する「リアルな世界におけるネットワーク効果」の実践です。この、個人の小さな一歩が周囲を巻き込み、プラットフォームのように価値を増幅させていく「スケールフリー戦略」の理論背景については、ぜひこちらの記事「地方銀行の「ネットワーク効果」を最大化する:GAFAの理論をリアルの世界で応用するスケールフリー戦略」をあわせてご覧ください。


※ 今回ご紹介した「5本の切り株」をめぐるストーリーは、私が香川の地で始動させたプロジェクトの、泥臭い実践の現場です。

そもそも、なぜ私が5年間も放置されていた耕作放棄地を借り受け、「おいでまい」の栽培に挑戦しようと決意したのか――。その背景には、私が元銀行員としての30年間、そして今の事業を通じて見つめ続けてきた、地域の課題と未来への強い危機感がありました。

今回の挑戦の「原点」であり、地域循環プロジェクトの思想を詳しく紐解いたシリーズ第1弾の記事も、ぜひあわせてご覧ください。

➡ 原点となった記事はこちら:耕作放棄地から始まる、地域循環の挑戦:香川県でのフィールドワークから学ぶ地域活性化のヒント


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★著書:「地方銀行ノマド ~地域ネットワーク×WEBマーケティング~」  藤堂敏明 


著者:藤堂 敏明(Toshiaki Toudou) 『地方銀行ノマド』提唱者 / 地域資産・価値創造アドバイザー

1994年に関西学院大学商学部を卒業後、地方銀行に入行。30年間にわたり現場の最前線で中小企業支援に携わり、地域経済の活性化を牽引。

【実績・メディア掲載】

  • 著書:『地方銀行ノマド』(2024年11月刊行・みらいパブリッシング)
  • メディア:JBpress(日本ビジネスプレス)にて、地域金融のアップデートを牽引するフロントランナーとしてインタビュー記事掲載
  • 地域活動:善通寺市の町おこし会社「株式会社まんでがん」公認サポーター

【現在の活動】 地方銀行の「地域ネットワーク」「無形資産」と「人的資本」を最大化させる「動的ハブ機能」の社会実装を推進中。生成AIを活用した現場DXや、カスタマーサクセスモデルによる地域創生をテーマに、実業(香川県での地域再生プロジェクト)と連動した発信を続けている。

専門領域:地域金融改革、セルフブランディング、現場DX、人的資本経営、地域人材教育

公式サイト藤堂敏明オフィシャルサイト

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