一生懸命の終わり:封建的な働き方から抜け出す「地方銀行員の新しいキャリア戦略」

2026年03月10日

「一生懸命に頑張っていれば、きっと報われる。」
そう信じて、ひとつの会社やひとつの組織に身を預けてきた方は多いと思います。

私自身も、地方銀行に入行した当時のプロフィール欄に「好きな言葉:一生懸命」と書き、コツコツ働くことだけが正解だと信じていました。

しかし、インターネットやSNS、DX、シェアリングエコノミーが当たり前になった今、「一社に尽くす」という前提そのものが静かに崩れつつあります。

鎌倉時代の封建制度から続く「一生(所)懸命」という働き方は、タテ型の社会では有効でしたが、ヨコのネットワークが力を持つ時代には、むしろ自分の可能性を狭めてしまうリスクもあります。

この記事では、「一生懸命」の価値を否定するのではなく、その前提にある封建的な働き方の構造を見直し、地方銀行員をはじめとする地域のビジネスパーソンが、ヨコのつながりを活かしてキャリアと地域を同時に守る方法を考えていきます。

「一生(所)懸命」を生んだ封建制度の働き方

「一生(所)懸命」という言葉の背景には、鎌倉時代の武士たちの生き方があります。
主君から与えられた土地を命がけで守り、その見返りとして収入と身分の安定を得る。
「いざ鎌倉」という言葉が象徴するように、一大事のときには主君のもとに駆けつけ、一枚岩となって戦うという価値観です。

現代に置き換えれば、「一つの会社で、同じ組織に長く勤め続けること」がこれにあたります。
私も地方銀行に入った頃は、一つの会社に腰を据えてコツコツ努力することが、美徳であり、キャリアの正解だと信じていました。

封建時代の「土地」が、現代では「会社」「終身雇用」「年功序列」に姿を変えただけで、根本にある発想はあまり変わっていなかったのだと思います。

 封建的な働き方が生んだ「変化を嫌う体質」

封建的な社会では、「土地」や「安定した収入」「生活基盤」を守ることが最優先でした。
自分の立場や所有物が守られている限り、その枠の中で忠誠を尽くすことが正義になる。

この感覚は、明治以降も形を変えながら日本社会に受け継がれてきました。

江戸時代までは武士社会、明治以降は官僚や大企業が「領主」の役割を担い、国や会社から給料という形で「土地(収入源)」を与えられる仕組みが続いてきました。

上に忠誠を尽くし、組織のルールに従っていれば、基本的には生活が守られる。
その代わり、急な変化や枠の外に出ることは好まれず、「変化より安定」を選び続けてきたのです。

この封建制度的な感覚こそが、「変化を嫌う」という日本人の気質と強く結びついているのではないでしょうか。

変わることで安定を失うくらいなら、多少の不満や不合理には目をつぶってでも、今の枠組みを守ろうとしてしまう。
そこに、「一生(所)懸命」という言葉の影が見えてきます。

タテの情報流からヨコのネットワークへ

サブスクリプション型のサービスやシェアリングエコノミーの広がりにより、「所有しないこと」が当たり前になりつつあります。
インターネットとSNSを使えば、国や会社を経由しなくても、直接つながった人たちと仕事をしたり、情報交換をすることができるようになりました。

これまでは、国や会社、権力者からトップダウンで情報や命令が落ちてくる「タテ」の流れが中心でした。

ところが今は、オンラインでつながった顔も知らない人同士が、ヨコにつながり、情報を交換し、ときにプロジェクトを立ち上げてしまいます。
ヨコの情報の流れ、ヨコの意思決定の流れが、タテの仕組みより速く、柔軟に動き始めたのです。

従来の封建的な組織は、このタテの流れを前提に設計されています。
そのため、ヨコの流れが増えるほど、相対的にタテ型のシステムが非効率になり、現場にしわ寄せがいく構図が生まれています。

「上の決裁を待つ間に、現場の商談チャンスが消えてしまう」「お客様のスピード感と会社のスピード感が合わない」といったズレも、その一例です。

※この「タテとヨコのズレ」は、現場DXの記事でも詳しく書いています。ぜひ参照してください。
【地方銀行の現場DXの処方箋】「電子化」で終わらない!収益と組織を変革する真のデジタル戦略

組織の自己保存と現場のミスマッチ

組織には、仕組みを守ろうとする自己保存の力が働きます。

新しいやり方を取り入れるよりも、これまでのルールや慣習を維持する方が、管理する側にとっては楽だからです。

一方で、社会環境やテクノロジーはどんどん変化し、お客様の価値観や行動も変わっていきます。

この「変わらない組織」と「変わる社会」のギャップが、現場にミスマッチを生みます。
営業現場では、お客様はSNSやネットを通じて最新の情報を知っているのに、社内のルールや決裁プロセスは昔のまま。

その結果、現場の営業マンが板挟みになり、「頑張っているのに生産性が上がらない」「やりがいを感じにくい」という状況が日本中で起きているように感じます。

これは単に「頑張りが足りない」「根性がない」という話ではありません。
タテ型の仕組みを前提にした「一生(所)懸命」モデルが、ヨコのネットワークが主役になる社会に合わなくなってきている、構造的な問題だと思うのです。

「一所懸命」から「ヨコのつながり懸命」へ

では、どうすればいいのでしょうか。
私は、「一つの会社に一生懸命尽くす」ことから、「ヨコのつながりを意識的に増やす」方向へ、働き方の重心を少しずつ移すことが必要だと考えています。

ここでいうヨコのつながりとは、組織の外の人、地域のプレーヤー、他社の人材、異業種の仲間とのネットワークです。

タテ型組織の効率的な部分や良さを完全に捨てるのではなく、その土台を活かしながら、ヨコのつながりで新しい仕事や価値を生み出していくイメージです。

具体的な三つのアクション

 ・副業(複業)を通じて、本業とは違う仕事・人脈に触れてみる

 ・プロジェクト型の業務にチャレンジし、「部署」ではなく「テーマ」でつながる経験を持つ

 ・地域のフィールドワークや勉強会に参加し、同じ地域で活動する人たちとの信頼関係を少しずつ築く

こうしたヨコのつながりは、自分のキャリアの安全網にもなります。
もし所属する組織が大きく変わったり、リスクに直面しても、外部とのネットワークがあれば、新しい選択肢を取りに行けるからです。

副業(複業)に対する考え方や、ネットワーク形成術、プロジェクト型業務の取り組みについては、過去ブログも参照ください。
地方銀行での複利的ネットワーク(人脈)形成術
地方銀行員のキャリアを最強にする複業(副業)|経済的自律で仕事のやりがいを最大化し、未来を自分で握る方法
プロジェクト型業務という新しい働き方
プロジェクト型業務で、刈り取る営業から育てる営業へのスタイル転換

人口減少時代に求められる「ネットワーク型の働き方」

日本は、確実に人口減少と働き手不足の時代に入っていきます。
従来のタテ型組織だけに頼った運営では、生産性や付加価値の面で限界を迎える場面が増えていくでしょう。

限られた人材で成果を出していくためには、ヨコのつながりを通じて知恵やリソースをシェアし、新しいやり方を生み出す必要があります。

「自分の会社の中だけで人材を囲い込む」のではなく、「外とつながっていることそのものが仕事である」という発想への転換が求められます。

企業側にとっても、社員に対して「社外とのネットワークづくり」を奨励することは、これからの時代の競争力になります。
閉じた組織でじっと守るのではなく、外との接点を持った人材が社内に増えるほど、変化に適応できる組織になっていくからです。

地方銀行はすでに「ヨコのネットワーク」を持っている

このような社会環境の変化のなかで、実は地方銀行には大きな強みがあります。
それは、地域の中で既に幅広いヨコのネットワークを持っていることです。

地域の企業、個人事業主、自治体、関係機関、専門家。
日々の取引や相談を通じて、膨大な「人」と「情報」のネットワークが積み上がっています。
今はまだ、そのネットワークのポテンシャルが十分に活かされていないだけです。

もし地方銀行が、タテの融資や審査の枠組みだけでなく、ヨコのネットワークを「価値を生む仕組み」として設計し直すことができれば、これからいくらでも新しい仕事(収益源)を作ることができるはずです。

社会変化の流れを見ても、やり方次第では地方銀行は「衰退する業界」ではなく、「ネットワーク産業」として再成長できるポジションにいると私は考えています。

※地方銀行の強みである地域ネットワークを使った戦略や考え方については、過去ブログにて書いています。

地方銀行が地域を救う!【信頼ネットワーク戦略】潜在顧客を掘り起こす「販路拡大サポート」が事業承継・M&A成功の鍵

地方銀行員のキャリア戦略としての「ヨコのつながり」

だからこそ、地方銀行員一人ひとりにとっても、「一社に一生懸命尽くす」だけの働き方から、「ヨコのつながりに意識的に投資する」働き方へシフトすることが、これからのキャリア戦略になります。

会社に忠誠を尽くすことと、自分の人生を守ることは、本来どちらか一方だけを選ぶ話ではありません。
ヨコのつながりを増やすことは、むしろ地域やお客様に提供できる価値を高め、結果的に本業にもプラスに働きます。

5年後、10年後に「ネットワークを武器に地域を動かす地方銀行員」が当たり前になっている未来を、私は見てみたいと思っています。

その第一歩として、「一生懸命」という言葉の奥にある封建的な前提をそっと手放し、自分なりのヨコのネットワークづくりを始めてみてはいかがでしょうか。

※組織と個人の働き方の思考が変われば、今までとは違った力が発揮できるのではないでしょうか。
地方銀行の人的資本の発揮については、過去ブログにて説明しています。
【地方銀行の未来】地域金融力強化プラン成功の鍵:人的資本の再構築と現場改革への提言


🗂藤堂敏明ブログ・カテゴリー別インデックス全37記事をテーマ別にまとめています。
👉インデックスページはこちら


著者:藤堂 敏明(Toshiaki Toudou) 『地方銀行ノマド』提唱者 / 地域資産・価値創造アドバイザー

1994年に関西学院大学商学部を卒業後、地方銀行に入行。30年間にわたり現場の最前線で中小企業支援に携わり、地域経済の活性化を牽引。

【実績・メディア掲載】

  • 著書:『地方銀行ノマド』(2024年11月刊行・みらいパブリッシング)
  • メディア:JBpress(日本ビジネスプレス)にて、地域金融のアップデートを牽引するフロントランナーとしてインタビュー記事掲載
  • 地域活動:善通寺市の町おこし会社「株式会社まんでがん」公認サポーター

【現在の活動】 地方銀行の「地域ネットワーク」「無形資産」と「人的資本」を最大化させる「動的ハブ機能」の社会実装を推進中。生成AIを活用した現場DXや、カスタマーサクセスモデルによる地域創生をテーマに、実業(香川県での地域再生プロジェクト)と連動した発信を続けている。

専門領域:地域金融改革、セルフブランディング、現場DX、人的資本経営、地域人材教育 

公式サイト藤堂敏明オフィシャルサイト

Share