「一生懸命」な働き方の終わり
みなさんは「一生(所)懸命」という言葉を聞いてどのようなイメージをお持ちでしょうか?一つのことに打ち込み、頑張って継続することで何かを成し遂げていくといった感じでしょうか。言葉の由来は、鎌倉時代に武士が主君から与えられた土地を、命をかけて守る姿勢に来ているようです。「いざ鎌倉」という言葉もあるように、何か一大事があった時には、自分の土地(収入)を守るために上司の所に集まって、一緒になって敵に対して戦うといった様子だと思います。
現代でいうと、一つの仕事や一つの会社に勤め続けて、頑張って自分自身を成長させていくという感覚だと思います。
私も約30年前に地方銀行に入行したときに、新入行員のプロフィール欄の好きな言葉が、まさに「一生懸命」でした。一つの会社に入ってコツコツ頑張って仕事に打ち込もうと考えていたと当時が思い出されます。
「一生(所)懸命」を生んだ鎌倉時代の封建制度
「一生(所)懸命」を生んだ鎌倉時代は封建社会です。封建社会の中の鎌倉武士は、領主と主従関係を結び、領主から土地を与えられ、土地(収入源)を子々孫々まで守るために領主に忠誠を尽くすといった思想があったと思います。この封建制度の社会システムは時代が変わっても、日本の社会に残っている伝統的な仕組みになっていると思います。
江戸時代までは武士社会でしたから、当然封建社会が続いていました。明治以降も地域の領主が、国や会社に変わって主な収入をもらう領主が、国や会社に代わっただけで、上司に依存している状況は続いており、今でも日本社会の中で封建制度的な感覚は大きく残っていると思います。この封建制度的な感覚の、「一生(所)懸命」の考え方が、日本人の変化を嫌う国民性につながっていると思います。
封建制度が日本人の変化を嫌う体質を生んでいる
日本人の変化を嫌う体質は、土地の所有や安定した収入、安定した生活を守るための発想であり、安定していることが前提にあると思います。これは自分の所有物が安定して価値を持ち続けたり、組織からの収入が約束されているといった前提のもとに成立している考え方になります。
封建的な情報のタテの流れから、ヨコの流れの増加
しかし現在の社会環境を見ますと、サブスクリプション型のサービスの増加やシェアリングエコノミーの拡大により、物を所有しなくても経済が成り立つ社会になってきました。そしてインターネットの発達やSNSの拡大により情報の流れが、従来の国や会社、権力者から落ちてくる流れではなくなり、インターネットやSNSでつながった今まで顔を合わせたことのないような人たちとつながることで、情報を得たり仕事をするといったことが普通にできる社会になってきています。ヨコの情報や意思決定の流れが増加しているのです。
今までの封建的な組織では、タテの情報や意思決定の流れをもとに運営されていますが、ヨコの情報の流れの仕組みが増加していることで、従来型の封建的なタテ型のシステムが機能低下して(ヨコ型のシステムに相対的に劣後して)きて、封建的システムが崩れてきているのだと思います。
封建的システムの中では、波風を立てずに組織の周りのメンバーの顔色を窺って、組織の目的を達成させるために、一枚岩で頑張るということが正解だったと思います。しかしインターネットの発達や、DX、 SNSの拡大により、封建的なシステムで回ってきたタテの情報の流れの不効率性が顕在化していると思います。
ヨコの情報の流れの増加に、封建的なタテの仕組みが追いつかない
組織はどうしても自己保存の作用が働き、従来の仕組みを維持しようとする慣性が働きます。この組織の自己保存を図る動きと、社会環境の変化との間でミスマッチが生じ、現場での営業マンとお客様との間での感覚のズレが起きて、日本のいろいろな現場で不効率な仕事が発生していると思います。これが日本の現場で生産性が上がらない根本的な原因になっているような気がしてなりません。
しかし、このような状況はいつまでも続くはずがありません。社会環境が変化しているのに、自分自身(自分の組織)が変わらないのでは、組織の存在意義がなくなってしまいます。
封建的なシステムの情報や意思決定のタテ型の流れが、上から下と下から上へと流れる仕組みは、インターネットや、DX、SNS、シェアリングエコノミーの発達により、徐々に不効率になってきて、政治や会社組織等、日本のあらゆる社会システムが不具合を起こしているのだと思います。この従来のタテの情報や意思決定の流れを、横の流れ(ネットワークの流れ)に順応していくように変えていく必要があります。
「一所(所)懸命」に働かず、ヨコの繋がりを創る
一つの組織の考え方に縛られて活動するのではなく、いろいろな人と繋がって新しい発想や仕事を生んでいくという発想に変えていかないと、不確実性が高くなるこれからのか社会では柔軟性を欠くことになります。タテ型組織の効率的な部分や、良い部分は残しながら、新しいヨコのつながりにより付加価値を創っていくということが、大切なのだと思います。組織の外部の人と繋がったり、副業をして本業とは違った仕事をしてネットワークを広げていくのです。
日本の社会は人口減少の影響で働き手不足が必ず起きます。従来のタテ型組織の体制では、生産性の観点から限界を迎えると思います。生産性を上げていくためにはヨコの繋がりを作り、新しいやり方を創造したり、効率性を向上させるといったことをしないといけません。
これからは会社としても、社員さん個人に対して、意識的に組織の外部の人とつながって、ネットワークを作ることを奨励するような意識を、組織の中に作ることが必要だと思います。自社の社員を自分の会社の中だけで温存するといった小さな発想ではなく、会社の外にネットワークを広げていくことが仕事であるという発想に立たないと、これからの大きな社会変化に対応できないのではないでしょうか。
地方銀行は既にヨコのネットワークを持っている
このような社会環境の大きな変化はありますが、地方銀行は地域の中で既にヨコのネットワークを持っていて、有利な立場にあると思います。今はまだ地域のリアルのネットワークが活用されていないだけで、ヨコの情報の流れを意識的に作って、そこから新しいものを産んでいくという発想に立てば、これからいくらでも仕事(収益源)を作っていくことはできるのではないでしょうか。
社会変化の流れから見てもやり方次第では、地方銀行はこれから伸びる産業になる可能性が高いと思います。是非5年後、10年後に新しい地域金融機関のスタイルを確立する地方銀行が出て来てほしいと思っています。