日本の経済複雑性を陰でサポートする地方銀行

2025年07月04日

経済複雑性ランキング1位の日本

みなさんは『経済複雑性ランキング』という指標をご存知ですか?『経済複雑性ランキング』で日本は過去30年間1位を維持しています。

経済複雑性指標(Economic Complexity Index、ECI)は、国の経済がどれだけ多様で洗練されているかを評価する指標です。これは、マサチューセッツ工科大学のセザー・ヒダルゴ准教授らによって提唱され、ハーバード大学のグロースラボが各国のランキングを出しています。

ECIは2つの要素を組み合わせて算出されます:

  1. 輸出品の多様性(Diversity)
    国が輸出する製品の種類の多さを示します。多様な製品を輸出する国は、幅広い生産能力を持つと評価されます。
  2. 製品の遍在性(Ubiquity)
    特定の製品を輸出している国の数を示します。少数の国しか輸出していない製品は、製造が難しく、専門的な知識や技術が必要とされるため、その製品を輸出する国の経済は高く評価されます。

これらの要素を組み合わせることで、国の「生産的知識」の蓄積度合いを数値化し、経済の複雑性を評価します。

ECIは、GDPのような経済規模を示す指標とは異なり、国の経済がどれだけ高度な知識や技術を持っているかを評価します。これにより、将来的な経済成長の潜在力や産業の競争力を予測する手がかりとなるのです。

例えば、シャツのように単純な製品は複雑性が低く、多くの国で生産されるが、高度な機械や素材は非常に複雑であり、作れる国は少ないということです。

このように経済複雑性の高い国は、高度で専門的な組織能力を幅広く保有し、それによって非常に複雑かつ希少で他の追随を許さない製品を生産することができるということです。

経済複雑性の高い国では、将来の環境変化に対応しやすく耐性が強いということになります。

日本の場合は、経済複雑性が高いということなので、他の国に比べて産業構造が複雑で技術力が高いということであり、これが日本の強みとなっているのです。世界との比較の中で、日本の産業構造の優位性があるということが理解できると思います。

日本の経済複雑性を陰でサポートする地方銀行

経済の複雑性という観点から、日本の地域をみてみるとどうでしょうか。私は地方銀行で長年転勤しながら各地域で仕事をしてきたのですが、それぞれの地域で特徴はあるものの、どの地域でも、様々な業種・業態の多様性があるように思います。

製造業から卸売業、小売業、サービス業、と多岐にわたる企業があり、また様々な業界がある。そして業種・業態に加えて、企業の規模では小規事企業から大企業までと、まさに多様性(複雑性)に富んだ企業群が、地域には存在していることを感じていました。

このように多様な(複雑な)状況は、密度の程度の差はあっても同じように日本全国にあるように思います。

そして地域の中にある中小企業が、有名なあの大企業の製品の中の部品を作っていたり、協力していたりということが、沢山あるのではないでしょうか。

大きい視点(マクロ)で見たときに、日本の経済多様性ランキングが1位ということを維持できているのは、各地域における中小企業がいろいろな形で、輸出する製品の部品であったり、サービスに関わることで重要な役割を果たしているのだと思います。

これは日本各地の地域で、企業同士が深く取引ネットワークでつながっているからできることなのです。このような複雑な産業構造を持っていることは、世界的な大きな環境変化(パラダイムシフト、パンデミック、地域紛争等)が起こったときでも形を変えて、柔軟に適応できる可能性が高いのです。逆に変化がある時の方がチャンスになる可能性があるのです。

一つの製品や商売が環境変化によって大きく影響を受けたとしても、形を変えて新しい環境に適応していく製品になり、サービスを作っていくという柔軟性を社会がネットワークとして持っていると思います。

環境変化に対応できる経済複雑性があることは、日本の中に業歴が100年を超える老舗企業が多く存在していることとも関連していると思います。

日本が持つ産業の多様性、深い幅が特徴であるということを理解して、お客様に接するのと知らずに金融的な判断だけで接するのでは、お客様との話の建設度合いが変わってくるのではないでしょうか。

このような日本の多種多様(経済複雑性)な企業さんたちを、金融として陰でサポートしているのが地方銀行だと思います。

経済複雑性のデメリット

一方で、産業構造が複雑で多様であるということは、経済全体で見たときには不効率な部分もあります。複雑で多岐にわたることで日本全体で見たときに、経営資源が分散して効率が悪くなることです。しかし不効率な部分も持ちながら、経済の複雑性を維持していることは、日本の産業構造の問題というよりは特徴(強み)づけているのだと思います。日本は複雑性と不効率性のバランスをとって、特徴的な産業構造を維持しているのだと思います。

デメリットを解消するためのDXの必要性

これからは人口減少による働き手不足により、労働者一人当たりの生産性の改善が求められます。この課題を解消する対策として、現場と間接部門のDXが必要になってきます。組織のDX化については、大手企業は資本や人材がありますので、自力でできると思います。しかし地域の中小企業には人材も資金力も十分にありません。

DXをしたいが、遂行する人材がいない地域の中小企業

ここに地域経済と運命共同体である地方銀行が、サポートに入る余地が十分にあると思うのです。地域の中小企業は人材が不足しています。一方で地方銀行は常にお客様の状況を与信業務を通して詳しく知ることができる存在です。お客様の課題の根本を理解できる立場にあります。この課題解決にお客様と一緒に取り組むことを仕事にすることは、お客様と地方銀行地域経済にとって三方にとって良い施策になるはずです。

地方銀行がDXのサポート管理(プロジェクト管理)を行う

地域の中小企業には人材が不足していて、課題は明確になっているが、その課題に対して解決を図っていく人材が不足しています。そこで地方銀行は課題解決のプロジェクトマネージャーとしてサポートをしていけば、お客様は大変喜ばれると思います。

プロジェクトの管理サポート料として、月10万円~30万円程度を、6ヶ月から1年単位で契約して実行していけば、お客様は新たに未知の人材を雇うより、気心知れた地方銀行にプロジェクトの管理をお願いする方が、お互いの信頼関係があるので、プロジェクトを進めやすくなるのではないでしょうか。

月10万円~30万円のプロジェクト管理料は、年間120万円~360万円となり、融資の金利収入から考えると破格なのではないでしょうか。

こういったプロジェクトを1人の担当者が3つから5つくらい持つだけで、銀行の仕事のスタイルは変わってくると思います。地方銀行には融資業務や運用性商品の営業している人材が多くいます。その人材の今ある業務から、新しい仕事にシェアしていけば十分に対応可能ではないでしょうか。

中長期的に見たときに、地域経済と銀行の経営を持続可能とするためには、地域の経済発展と銀行の収益が繋がっていないと成立しないと思います。

金利が上昇局面にある今が変革のチャンス

足元で金利が上昇してきて、銀行の収益力が改善してきている最中です。しばらくは銀行の収益力も上がると思いますが、中長期的見ると地域経済の人口減少の影響が大きく響いてくると思います。現在の余裕のある時だからこそ、新しい地方銀行の経営スタイルを作って、地域の中での地方銀行の立ち位置や信用力、ブランド力を上げる新しい仕事の仕組みを作って、地域とともに地方銀行が発展して欲しいです。