【新春寄稿】地方銀行員は「地域の動的ハブ」であれ――ネットワーク理論で解き明かす「地方銀行ノマド」の正体

2026年01月05日

2026年、あけましておめでとうございます。藤堂敏明です。

昨年12月末、私はブログ・インデックスを整理しながら、改めて確信したことがあります。それは、「地方銀行の経営改革とは、既にあるネットワークを再起動することに他ならない」ということです。

今回は、私が提唱する「地方銀行ノマド」という働き方を、「ネットワーク理論」という科学の視点から紐解いてみたいと思います。

1. あなたは「水道管」か、それとも「ルーター」か?

従来の銀行員の役割は、いわば「水道管」でした。本部から「お金」という水を預かり、決まったルートで顧客へ流す。この構造では、ノード(顧客)と銀行は1対1で繋がっているだけで、顧客同士の横の繋がりは生まれません。

しかし、ネットワーク理論の視点で見れば、地方銀行の真の価値は「預金・融資残高」ではなく、「どれだけ多くの質の高いつながり(リンク)の結節点になっているか」にあります。

これからの行員に求められるのは、情報を制御し、新しい回路をつなぎ替える「ルーター(交換機)」としての役割です。

2. 「構造的空隙」にこそ、ビジネスチャンスが眠っている

ネットワーク理論には「構造的空隙(Structural Holes)」という言葉があります。 例えば、「素晴らしい技術を持つ農家(A)」と「新しいメニューを探している三ツ星レストランのシェフ(B)」がいたとします。二人はお互いを知りません。この間に空いている「穴」が構造的空隙です。

地方銀行ノマドは、支店という箱を飛び出し、地域を縦横無尽に駆け巡ることで、この「穴」を次々と発見します。

私が手掛けた『「善通寺のブランド麦(だいしもちむぎ)をミシュランの舞台へ」』というプロジェクトは、まさにこの空隙を埋める作業でした。善通寺の宿坊や栗林公園のカフェという、本来交わることのなかった「点」を繋ぎ、地域の無形資産を「言語化」して市場へ届ける。

ハブ(行員)が動くことで、ネットワークの形が書き換わり、地元産の「麦」が「より高付加価値なブランド」へと変貌するのです。

3. 「弱いつながり」がイノベーションを連れてくる

もう一つ重要な理論が、社会学者マーク・グラノヴェッターが提唱した「弱いつながりの強さ」です。 いつも顔を合わせる身内(強いつながり)からは、新しいアイデアは生まれません。むしろ、たまにしか会わない異業種や遠くの専門家(弱いつながり)こそが、決定的なチャンスをもたらします。

「地方銀行ノマド」が複業を推奨し、外部ネットワークをセルフブランディングに活用するのは、この「弱いつながり」を意図的に銀行内部に持ち込むためです。一人の行員が「外の世界」と繋がることで、銀行全体が変化に強い組織へと生まれ変わるのです。

※過去ブログにて地方銀行員のネットワーク形成術について『地方銀行での複利的ネットワーク(人脈)形成術』で解説しています。

4. 2026年、地銀の「無形資産(ネットワーク)」を収益化する3つの転換

では、こうしたネットワーク理論を、具体的にどう「現場の収益」や「経営改革」に結びつけるべきか。2026年、私たちがパラダイムシフトを起こすべき「3つの転換」を提示します。

「点の管理」から「線のデザイン」へ

これまでの銀行は、顧客を「点(預金・融資残高)」として管理してきました。しかし、真の資産価値は点と点を結ぶ「線(リンク)」にあります。

  • 転換: 「A社からいくら利益を上げるか」ではなく、「A社とB社を繋いだことで、どれだけの経済圏が生まれたか」を評価軸にする。この「線のデザイン料」こそが、これからのコンサルティング収益の本質です。

「情報の非対称性」から「情報の新結合」へ

かつての銀行は「客が知らない情報を知っている」ことで稼いでいました。しかし今は情報過多の時代。価値があるのは情報の所有ではなく、「遠く離れた情報を組み合わせる(新結合)」のことです。

  • 転換: 地方銀行員が持つ地域最大の顔の広さは、AIにも真似できない最強の「オフライン・データベース」です。これをノマド的に動かし、地域の潜在価値を「言語化」して結びつけるだけで、コストゼロで新しいビジネスモデルが組成されます。

「サンクコスト」を「インフラ」へ

長年築いてきた地域との信頼関係や、全産業を網羅する取引先網は、維持するだけの「コスト」だと思われてきました。しかし、ネットワーク理論では、これは参入障壁が極めて高い「プラットフォーム」です。

  • 転換: 既に構築済みのネットワーク(資産)があるのだから、あとはそこに「ノマド」という新OSを載せて起動させるだけ。追加の設備投資なしで、事業承継や販路拡大を加速させる高効率なビジネスモデルへの転換です。

※過去ブログにて地域ネットワークからの収益化を『地方銀行が地域を救う!【信頼ネットワーク戦略】潜在顧客を掘り起こす「販路拡大サポート」が事業承継・M&A成功の鍵』で解説しています。

結びに:地域の「ネットワーク・アーキテクト」として

「地銀には何もない」と嘆く必要はありません。ハブ機能は、既にあなたの中に、そして地域の中にあります。 眠っている顧客リスト、語られていない地域の物語、活用されていない信頼。これらすべての「点」を繋ぎ合わせ、機能させるのが「ノマド」としての私たちの使命です。

2026年、私たちは単なる「金貸し」を卒業し、「地域のネットワーク・アーキテクト(設計者)」として、日本を地方から変えていきましょう。

藤堂敏明の視点:

  • 銀行員の価値 = 繋いだ「構造的空隙」の数と質
  • 経営改革 = 静的な組織から、動的なネットワークへの転換
  • AI活用 = ネットワークの解像度を高め、顧客課題へのアプローチとマッチング精度を上げるツール

※過去ブログにてAIの活用について『【金融庁も注視する地方銀行のAI活用】本命は「思考の拡張」と「無形資産」の収益化:現場力を最大化するカスタマーサクセス戦略』解説しています。


(追伸) 

地方銀行には、まだ誰も手をつけていない「巨大な埋蔵金」が眠っています。それは金庫の中ではなく、私たちが日々接している「顧客同士のつながりの可能性」の中にあります。

多くの人が「地銀は苦しい」と言いますが、私は逆だと思います。これほど膨大で、信頼に基づいたネットワークを既に持っている組織が他にあるでしょうか? 必要なのは、大規模なシステム投資ではありません。私たちの「思考のスイッチ」を、地域全体を俯瞰する「ネットワークの構築」へと切り替えること。

それだけで、昨日まで維持コストだと思っていた地域のつながりが、今日から地域を救い、地方銀行を潤す最強の資産に変わるのです。

※過去にブログにて、地方銀行の現場改革の提言を『【地方銀行の未来】地域金融力強化プラン成功の鍵:人的資本の再構築と現場改革への提言』解説しています。


≪藤堂敏明・著書のご紹介≫

今回のブログで触れた「ネットワーク理論」や「無形資産の収益化」について、より具体的な実践手法を体系化した一冊です。

『地方銀行ノマド ~WEBマーケティング×地域ネットワーク~』 (2024年11月15日 商業出版)

「地方経済を救えるのは地方銀行しかいない」 その現場での強い危機感と、銀行の外からこそ見える「地域金融の真の可能性」を全精力を傾けて綴りました。

  • なぜ今、地方銀行員に「ノマド」的な働き方が必要なのか?
  • 地域ネットワークをどう「WEBマーケティング」と掛け合わせるのか?
  • 現場から組織を変え、地域を動かすための具体的なステップとは?

組織の壁に悩みながらも、地域の未来を信じるすべての金融マンへ。私の実践の記録が、皆さんの「思考のスイッチ」を切り替える一助になれば幸いです。